じぶんのもの
船の実習に行くときには、なるべく荷物を減らすのが必須だった。
持っていくのが大変というのもあるが、そもそも6人部屋で
自分に与えられるスペースはベット、ロッカー、引き出しがそれぞれ一つだけ。
制服や革靴、安全靴や防寒具、日々の着替えだけで結構な荷物。
ほかに風呂や洗面用具、洗剤とか日常生活に必要な物を持っていく。
なるべく小さくするのがコツ。
その当時、新発売になった洗剤アタックの小さいやつとか液体歯磨きには随分とお世話になった。
そのほかに自分の娯楽用具。
酒、つまみ、タバコ、お菓子、コーヒや紅茶、ココアなど。
お店に行くことなどできるわけが無いのである。
カルピスが小さい紙パックで発売されたのはとても便利だった。
そういう限られた生活と荷物の制限がある中で
何を持っていくかの選択はとても重大であった。
そのうちに慣れてくると、皆が持っている物は皆が持っている味気ない物に感じられてくる。
何か特別感が欲しくなる。
持っていって良かったのは、マグカップ。
船の上では一人に一つ、プラスチックのコップが貸与されて歯磨き、朝飯の牛乳、夜の酒まで
それで済ますことができるのだが、みんな同じコップなのである。
そんな中、自分用の陶器のカップがあるのはとても良かった。
みんなが持っているものは、みんなが持てるものなのだよ
って思う様になったのはそう言うことがあったから。