僕らの寮に住んでいた猫のはなし
その灰色の猫は夏ごろから僕らの寮に住んでいた。
エアコンもない居室のドアは、いつも開けっ放しだし、24時間誰かが起きていて誰かが起きていたから
気が向いた部屋に入っては、ベッドで寝たり、餌を貰ったり、酔っ払いに絡まれたりしていた。
ぼくの周囲の友達からはタロウちゃんと呼ばれていたが、いろんな部屋に出入りしていたので沢山の名前を持っていたようだ。
タロウちゃんは、弁当が入ったコンビニ袋を開ける音を聞きつけると
コンクリートの廊下をカチャカチャと爪を鳴らしながら走ってきて、分け前をねだってきた。
授業をさぼって寝ていると、ベッドに入ってくるのだが多分ノミを背負っていたから、その後で体が痒くなったりした。
その秋にタロウちゃんは友達の先輩のベッドで子供を3匹産み落とし、僕らは彼が実は彼女だったことを知った。
冬になる頃、子供はいつの間にか1匹になっていたが、僕らもタロウちゃんも特に気にせず
いつもの様に暮らしていた。
冬休みが終わって2日目の朝、その街はいきなり何も無くなってしまった。
みんなで周りの家を掘りに行って、何人かを助けたり、助けられなかった人を中学校まで運んだりした。
くたびれて部屋に帰って寝た次の朝、廊下にタロウちゃんは1人でポツンといた。
いつも連れていた子供はいなかった。
僕はタロウちゃんに声をかけたけど、タロウちゃんは怒ったように向こうに走って行ってしまった。
僕はその次の日に実家に避難し寮に戻ってきたのはしばらく経ったあとで
タロウちゃんを見たのはそれが最後だった。
あれから25年もたったとはあんまり思えない。
記憶が薄れるとかそんなのは嘘だ。
《追記》
たくさんのコメントありがとうございます。
当時の記録などあわせて読んで頂けると幸いです。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jime/47/2/47_148/_pdf/-char/ja